海の駅と道の駅 - 渓流詩人の徒然日記

瀬戸内海にはあちこち「海の駅」がある。

やっとできたと海技学院の先生は言っていた。

誰でも係留してよいのだ。道の駅の海バージョ

ン。

マリンボートで海の駅づたいに渡り歩いて、海の

ツーリングを楽しむこともできる。

学院の先生曰く、「年間40日の有給を消化したら

かなり楽しめますよ」とのことだ。

うーむ。

有給をほとんど使わずに働き続けた俺は大馬鹿

だ。

土日に出た代休のみで年40日の有給はまるまる残

したままで22年が過ぎた。

880日。もろに2年半近くまるまる休んでも給料

をもらえる程の権利を無料で放棄していた。つま

り、単純換算で2200万円ほどを棒に振っていた

ことになる。休んでいてもそれだけ貰える権利が合法的にあったのに、それをみすみすドブに捨て

ていた。考えたら馬鹿らしい。

仕事人間ナンセンスと思いながら、働き詰めだっ

た。それは家族の為でもあったのだが、俺は本当

の自由をいつ手にしていたのだろうか。

東本昌平の劇画『雨は これから』の主人公松永

は劇中で私と同じ年齢だが、松永は思うところあ

りテレビ局を辞めた。

彼はADではなくDとしてトップで活躍していた

が、55才で仕事を辞めて、乗り続けたバイクと生

活するために廃屋となっていたドライブインを不

動産屋から借りて暮らし始める。その時57才。

そこは海辺の町からバイクで20分の距離だ。

松永は飛ばすので、通常は20分では着かない距離

だろう。たぶん街から30kmくらいか。

その松永の元にいろいろな年齢層の風変わりなラ

イダーが集まって来る。

松永が住む廃屋だったドライブインを中心に物語

はオートバイと共に生きる人間たちの「日常」

描いて妙にリアルに進行する。

私は東本作品の中で一番好きだ。

何のクライマックスもない。

だが、まるで漱石の小説を読むような印象を受け

る。

そこには確実に「人のドラマ」がある。

作り物的ではない、不思議なリアル感を持った物

語がある。

そして、何故だか、非常に松永の気持ちが私には

とても理解できて、他人事には思えない。重なる

部分も多い。

大きく違うのは、松永は離婚したが、私は離婚し

ていないところだ。私には家もある。

ただ、松永が自分では見えない何かを求めて走る

というところは、とてもよく分かる。ような気が

する。

『雨は これから』。

なかなか良い。

劇中大きなクライマックスはない。

しかし、だからこそ、その展開が重い。

そして、登場人物のキャラが立ちすぎる程に個性

的で面白い。

また、普段はニヒリストの松永が時折垣間見せる

人情風味の描写も私は好きだ。クール(冷静)で

クール(カッコいい)なのである。

そして、松永がバイク数台と暮らすドライブイン

は、気ままな奴らが集まる道の駅となってしま

う。

松永は「帰れ」といつも言うが、誰も帰らずいつ

もたむろしている。

この感覚は今の個人主義的なプライバシーや個人

情報がどうのというのを目くじら立てて常に口に

するような連中には到底理解不能だろう。

しかし、私には分かる。70年代男は皆がそうだっ

たからだ。

そのことは映画『時をかける少女 2010』に克明

に描かれている。

現代っ子の主人公の少女(仲里依紗)は70年代に

タイムスリップして、その頃の男たちの生活に

触れて悲鳴を上げていた(笑)。

そもそもね、タテカンもなく、学生会館の壁ぢゅ

うがポスターと落書きだらけでない大学なんてね

(笑)。今の近代美術館のような大学は綺麗過ぎ

て気持ち悪い。大学というのは、明治建築を残し、昭和時代の建物は今の新宿ロフトに下りる階

段の壁際のようなものだ。それは戦後からずっと

1980年代後半までそうだった。

それが俺にとっての大学だった。あれは一つの

若者文化の象徴だったし、世間はそれが「ごく

普通で当たり前のもの」として認容していた。

それらは全て破壊された。

そして日本の全ての大学は監獄の壁が連なる施設

となった。大学は完全に産学協同の産業予備軍を

洗脳養成する機関となり、学問の真理探究を求め

る学術教育機関の位置を放棄した。物言わぬロボ

ット製造の工場が今の大学の役目となり、それを

突き崩そうとは誰もしない。「俺ら」は本当に

敗北したのだなと痛感する。

京大では先頃タテカンを強制的に撤去し、町の景

観なんとか条例で処罰するのだという。

まあね、くそくらえだ、そういう風潮は。

そのうち首の後ろにバーコード埋められて国家に

ロボットのように管理統制されてもハイハイと

喜んで尻尾振るぞ、今の風潮を賛美する奴らは。

禁煙ファシストのような奴らな。

『雨は これから』は、俺は好きだ。

これ、もしかすると、全漫画の中で私的トップに

なるかも知れない。

次の巻の発売は9月。